レクチャー報告:耐震要素としての土壁

2月12日、金沢工業大学の後藤正美先生による「耐震要素としての土壁」のレクチャーが行われました。たいへんわかりやすいご講演でした。

前半は、鳥取県西部地震新潟県中越地震などの先生ご自身がかかわった被害調査をもとにしたお話でした。

いっときは、「伝統構法は地震に弱い」というイメージがあり、国による解体費用の補助もあったことから、ハウスメーカーの現代的な工法のものに一気に建て替えが進みました。が、必ずしも、伝統構法は構造的に弱いわけではない、ということです。

確かに被害のある伝統木造もありましたが、まったく壊れていないものもある。壊れているという意味では、現代的な工法のものも壊れている。さて、その差はどこにあるのかというと、構法の違いというよりも、「地盤の悪さ」「不適切な改修」「蟻害による部材の腐朽」のほうが大きいということです。

伝統建築の被害で、柱が折れている事例があったそうですが、よくみると、折れた上部の小壁が構造用合板に取り換えられてある。そういう不適切な改修がすでになされたところであり、その「かたい」部分と「やわらかい」部分の境目のとこに被害が出たそうです。

建物の特性を知る場合に、「復元力特性」という見方があります。すなわち、1.剛性(固さ)、2.耐力(強さ)、3.変形性能(ねばり強さ)、の3つだそうですが、現代的建築は、先の1「剛性」と2「耐力」で見ますが、伝統木造については、加えて3「変形性能(ねばり強さ)」をいかに評価するかが、ポイントだということです。筋かいや金物は破断すればゼロなのです。ねばり強さというものが、いわゆる限界耐力計算の要のようです。

あともうひとつ重要なことは、適度なバランスということです。部分的に固くしたり、重くしたりせず、構造と重量のバランスをうまくとるべきとのことでした。先の被害例も部分的に固くしたところでした。面白い例では、構造補強の提案として、2階の壁を減らすという提案もされているそうです。考え方の違う構造物では、発想の転換が必要そうです。

参加者の声

  • 現行の告示に関する批判(同感です)もあり、伝統の場合には柱脚固定、金物の使用はよくないという思い切った見解も聞けて大変興味深かったです。特に粘性土を扱う土壁の技術に一定の仕様を確認することの難しさを思っています。
  • 大変勉強になりました。早く実務へフィードバックされるように期待しています。現実問題として、私がやっているものは改修物件が多いので、実情に合ったところの検証を願いたいです。
  • 土壁についての知識は全くなかったので、今日の講演会について行けるか心配でしたが、とてもわかりやすく、土壁に対する興味が大変深くなりました。伝統構法は「やわらかい」構造であり、「かたく」することだけが耐震につながるわけではないということを初めて知ることができました。大変勉強になりました。ありがとうございました。