講演会レポート

9月11日に行われました講演会「町家棟梁:大工の決まりごとを伝えたいんや」は、同名の書籍の出版記念講演会でしたが、関係者に加え、京都市内/市外から多くの方にご参加いただきました。

矢ヶ崎善太郎先生からは、本書をつくった動機、裏話などを語っていただきました。企画から1年にわたるあいだおつきあいいただきましたことに深く感謝いたします。

棟梁・荒木正亘氏からは、「大工の決まりごとを伝えたいんや」というタイトルで、非常に含蓄のあるお話をいただきました。どのようなときに決まりごとの重要さに気づいたかというエピソードははっとさせられるものでした。いまは、棟梁として指導にあたっておられますが、やはり誰しもそのような気づきの瞬間があって初めて成長するものだと実感いたしました。

後半は、若手でばりばり活躍しておられる大工棟梁3人衆によるパネルディスカッションでした。本書を読んできてもらってぐっときたところをネタに話をひろげるということでした。やや緊張気味のお三方でしたが、実直なご意見を披露いただき、たいへんよかったと思います。

最後に、竣工式にうたう「木遣り」をご披露いただきました。「祝い歌」というやつです。時間の都合で1番のみでしたが、やはり大工さんの本領発揮であり、最後にいい感じで締めていただきました。

載せられなかったお話・その3:相続の仲介役

荒木棟梁 出入りの大工というのはものすごく信頼があるから、悪いようにはせえへんと。家のことはあいつに聞いたほうが早いんちゃうかというのがあるんでしょう。

相続の話に首をつっこんだこともあります。どの土地を誰にあげるのか、ちょっと相談してくれとか頼まれるわけです。それで「おまえしゃべれ」ということになったりしました。

そのご主人は実は大学の法律の先生だったりするのですが、「そんなん先生自分でやりいな」と言いましたら、「わしはなあ、人のことはできるけど、自分の家のことはできん」などと言われ、解決を図ったこともありました。

親戚みなが集まったところで、「相続はどうされますか」っちゅうのを聞くわけ。そしたら、みんななかなか当主に言いにくいことを私には言わはる。それを全部聞いて、ではこういうふうにしたらどうですかという案を出して渡すわけです。そうしたら、「もう荒木さんが言うんやったらいいわ、それにしよ」って。そんなこともありましたね。

出版記念講演会のお知らせ

『町家棟梁:大工の決まりごとを伝えたいんや』ですが、発行して一か月弱ですが、おかげさまでたくさんの反響をいただいております。荒木棟梁の長年の経験がまとまった一冊ということでご評価をいただいているものと確信します。まだの方はぜひお手にとり、ご一読ください。

さて、その町家棟梁・荒木正亘氏の肉声が聞ける講演会が開催されます。9月11日(日)です。場所は、聞き手の矢ヶ崎善太郎先生が所属する京都工芸繊維大学京都市左京区松ヶ崎)にて行われます。

荒木棟梁と矢ヶ崎先生との対談と、読者代表として3名の若手大工さんにお越しいただき、本書を読んでグッときたところを挙げていただき、荒木棟梁と意見交換をするような構成にする予定です。

講演会のみの参加(1000円)も可能ですが、懇親会(+4000円)も行います。懇親会は同キャンパス内の生協となります。岸和郎先生設計のいかした建物です。

詳細は以下をご覧ください。
町家棟梁:出版記念講演会のご案内

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※9/11 講演会は、当日のお申込みも受け付けます。現地会場に直接足をお運びください。

載せられなかったお話・その2:敷地境界線決めに立ち会うことも

荒木棟梁 大工は作事以外でもいろいろとお施主さんにかかわることがあります。たとえば、敷地境界線決めの立会いなど、今では弁護士や測量士がやりますが、昔はよく大工がしたものでした。「近隣の揉めごとは大工の仕事や」ってうちの親父も言うてたぐらい。

私らのときでも、揉めごとなどもみな大工が治めました。家の揉めごと、たとえば、隣の屋根は出てるのどうしよかとか、敷地の境界どこにしよかというようなことは、みな大工が決めてました。

向こうの大工とこっちの大工で「境はこのへんやな。ほなこれもう印いれよか」。それで、「お互いの大工が決めたんやから、それでよしとしよう」となりまして、丸く治まったわけです。当人同士やったら後感情が残りますやん、だけど大工がここが妥当やってなったら、もうそれで揉めることもない。

その場合も、簡単な測量図程度はつくりました。境界というのはいつも揉めるわけですが、合意できたら、あとはもう測量士にお任せをするわけです。京都の昔の家は、そんな境界に杭が打ってあるような家なかったですから。だから、やっぱり常識で解決するのが一番揉めへんね。

載せられなかったお話・その1:玄関の鍵

『町家棟梁』の聞き取り作業では、たいへん興味深いお話をたくさんお聞きしましたが、紙面の都合で載せられなかったお話もあります。そのうち何点かをこのブログで紹介します。

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荒木棟梁 玄関というのは、基本的に外から鍵掛けることなく、中から掛けるだけやったんです。外出のときは、もしもどうしても親戚に不幸があって、家中みな出るというときには、裏木戸開けて、お隣の家から出るとかしました。なので、中からはかなり頑丈な鍵があるけど、外は全くなかった。

古い町家に行きますと、板閂(かんぬき)や落し猿(おとしざる)を閉めるとパタンと落ちて自然に鍵が掛かる。内側はかなり頑丈に閉まります。外からはどうやって開けるのかと思うかもしれませんが、本来外から開ける必要はないんです。

外から開けることはない。だから、家を空けることがないわけ、極端に。だから京都の場合は火事が少ない、空けるなら隣に言って裏木戸から通してもらう。

戸は閉まってるときは外れないんです。それで、ちょうどこの真ん中ぐらいまで持ってきたときに、ここでだけ外れる。アダ堀をしておくとそこで外れるようになります。その場所以外では、なんぼ気張っても外れません。

『町家棟梁』出版のご案内

町家棟梁: 大工の決まりごとを伝えたいんや
ひさびさのブログ投稿ですが、本がようやくかたちになってきましたのでアナウンスいたします。

書名は『町家棟梁:大工の決まりごとを伝えたいんや』です。

著者は、京町家作事組の副理事長で、以前担当させていただいた『町家再生の技と知恵』の知恵袋的存在でもあります、荒木正亘棟梁です。

大工棟梁の本としては、西岡常一さんの『木に学べ』(小学館)、中村外二さんの『京の大工棟梁と七人の職人衆』(草思社)などがありますが、本書は、京都の町の市井の人々の住居である「京町家」の改修を担ってきた第一人者による本となります。

ただ、大工さんは家づくりが本分なので、なかなか文章を書くというところはお願いできませんので、聞き書きというやり方でつくっています。その言葉の引き出し役に、京都工芸繊維大学大学院准教授の矢ヶ崎善太郎先生にお願いしました。

矢ヶ崎先生は、先の『町家再生の技と知恵』に続き、『図説建築の歴史』などでもご協力をいただいていたご縁もあり、今回お願いすることができました。書店には8月1日ごろには並ぶ予定です。建築書の棚があるような、比較的大型の書店にてご覧ください。

伝統建築・町並みの被害

東日本大震災が2011年3月11日に発生しました。被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。

津波原発災害が甚大であり、またその影響による計画停電がおおきく報じられるなかで、建築への被害はあまり聞こえてきません。そのなかでも、伝統建築の被害状況はどうなっているのでしょうか。

文化庁発表によると、国関連の文化財の被害は3月21日現在、計295件とのことです(朝日新聞)。

町並みなどの状況については、ブログなどで報告されている方がいらっしゃいますので、ご紹介します。

◎佐原(千葉県香取市:実測で日本地図を作った伊能忠敬ゆかりの地)

◎真壁茨城県桜川市:戦国時代末期の城下町。蔵づくりの町並み)

この写真を見る限りにおいては、とくに蔵に被害がでているように見えます。この「伝統構法を学ぶ 連続レクチャー」の第1回で林康裕先生(京都大学建築保存再生学研究室)がおっしゃっておられた、重くて粘りがきかない蔵が最初に壊れていくという印象を持っている、という言葉が思い起こされます。

大河原の町並み(奥州街道の宿場町)の蔵の被害について、ツィートされている方もおられます。